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若葉屋のコロナ禍を振り返る。

おしごと Owner's Works

2020年の2月上旬。観光協会の会合で顔を合わせた県内の宿泊事業者たちと、「この冬はいつもにも増して、客入りが少ないですよね。これ、コロナの影響なんですかね?」「いやぁ、去年が瀬戸芸やったけん、その反動で少ないんとちゃうんかな」なんて、笑いながら話していたものです。

そのわずか数週間後にはキャンセルが入るようになってきて、いよいよ若葉屋のコロナ禍は始まりました。

日本社会がパニック状態になった2020年の4月、5月の2ヶ月間はまるまる休業しました。売上ゼロ! 6月から営業を再開しましたが、1日1組限定の全館貸切対応に。2021年3月からは男女混合ドミトリー(相部屋)を定員8人のグループ用個室に転換し、元からある和室3部屋とを合わせた計4部屋、1日最大4組での宿泊を受け入れるようにします。

訪日個人旅行再開で、最初に若葉屋に来られたおふたり。

そんなながらも、2021~2022年の年末年始はまあまあ忙しく、さらに続く2022年はコロナ禍での瀬戸内国際芸術祭2022が開催。おかげさまで春も夏も秋も忙しかったです。2022年10月11日に個人での訪日観光が解禁されます。するとその初日にイギリスからの旅行者が若葉屋に宿泊されたのを皮切りに、本格的に訪日客が若葉屋にも戻ってくるようになりました。

この2022年で若葉屋のコロナ禍は終わったなと感じました。あと1,2年もすれば喉元過ぎればなんとやらで、どうせ忘れてしまいそうなので、備忘録がてら若葉屋のコロナ禍を振り返ってみたいというのが今回のブログ記事です。

波打つ売上

コロナ禍の3年間は、若葉屋の売上グラフが感染状況と行動制限に合わせるようにして波打ちました。この売り上げの回復を狙った政策がGo Toトラベルに始まる一連の旅行キャンペーンです。若葉屋も参画しました。お客さんは割引やクーポンが受けられるので喜びます。しかし、宿からするとキャンペーンへの参画で膨大で煩雑な事務作業が発生することになりました。さらに、感染状況によって繰り返される中断、再開、ルール変更に振り回されます。そうこうしているうちに、こう思うようになりました。

キャンペーンによる割引やクーポンを当てにしている旅行者は、もっと高価だったり、食事付きプランのある宿に泊まった方が割がいいのだから、そもそも若葉屋には来ていないのではないだろうか。逆に、若葉屋に来てくれているお客さんたちは、キャンペーンがなくても来てくれるのではないだろうか。

キャンペーンへの参画で事務作業が増えているのは確かなのに、それが売上回復に貢献しているのかはかなり不確かだったのです。こうして、若葉屋は2021年末で県民割を脱退。2022年秋からの全国旅行支援にも参画していません。もしキャンペーンに参画し続けていたら、若葉屋の売上がどうなっていたのかを知る術はありませんが、現状の売上を見るに、これでよかったのだろうと思っています。

若葉屋ではコロナ前からはっきりと繁忙期と閑散期がありました。お客さんは来るときは来るし、来ないときは来ないのです。コロナ禍ではその当たり前を、よりわかりやすく思い知らされた感じです。それが今の働き方や営業方針にも反映されることになります。

設備改善

塗装屋の幼なじみからアドバイスを受けながら、木部の再塗装。

約3年に渡るコロナ禍で若葉屋の設備改善が進みました。なんせ、売上は落ちても時間だけは十分にありましたから!

〔新規購入・買い替え〕Wi-Fiルーター、生理用ナプキン&鎮痛剤、客室用備品(座卓、鏡、クッション)、敷き布団、子ども用補助便座&踏み台、キーボックス、炊飯器、無臭洗濯洗剤、座卓に台ふきん、ごみ箱、調味料、老眼鏡、掛け時計増設、傘立て、喫煙用椅子、ロードバイク用スタンド、キーホルダーのタグ付替

〔工事〕外壁塗装、駐車場砂利石の沈み防止&防草、ドアにオートクローザー取り付け、PCデスク補強、引き戸の隙間風対策、居間の座卓に電源を新設、照明スイッチに誤操作防止用カバーを取り付け、障子の張替え、2階ツイン和室に電源を増設、居間の西向き窓に木製ブラインドを取り付け、壁紙の重ね貼り、座卓の漆塗り替え、2段ベッドの物干し竿を固定、中庭を再整備、木の植え替え(進行中)

〔更新〕館内案内ブック、周辺マップ、レジカード、館内掲示物、客室表札写真、アクセスページ

今、ざっと思いついたものでもこのぐらい。これら、設備面の改善のほとんどは、お客さんにとっての不便を改善するための作業です。今になってみれば、どうして開業から約6年もの間、その不便に気づけなかったのか、どうして放置してしまっていたのかと反省します。

公式サイトリニューアル

2020年から2021年にかけて、若葉屋の公式サイトをリニューアルしました。これも、コロナ禍がなければ、もっと先延ばしにしていたはずです。

これまでのお客さんとの日々のやり取りや、以前行った宿泊アンケートの結果を元に、今回のリニューアルの目的を明らかにし、構成をじっくりと練り上げていきました。若葉屋での宿泊を検討してくれている人たちが知りたいことは何なのか、若葉屋として伝えたいことは何なのか、と。例えば、若葉屋への予約を躊躇しそうな客層、つまり、一度もゲストハウスに泊まったことがないひとたちや、子ども連れのファミリーが不安に思っていることや知りたいことに応えられるサイトづくりを心がけました。また、全館貸切利用についてのアピールも強化しました。さらに、見た目にはわかりませんが、私が自力で書き換えがしやすいような仕様にしてもらったことも、大きな改善点です。

このリニューアルでは、ありのままの若葉屋を伝えられる写真をプロのカメラマンに撮っていただきました。そして、制作会社のみなさんとは長時間に渡る打ち合わせを重ね、私からのしつこいまでの細かい注文に付き合っていただきました。本当に感謝しています。

感染対策

感染対策を考える際に、いったい何が悩ましかったかといえば、感染症や感染対策についての認識が、ひとによってかなり異なるということ。そして、いろいろな認識のお客さんたちが、若葉屋のひとつ屋根の下、時間を共有するのです。

流行初期、まだ感染の舞台が病院内や都市圏に限られていた頃に「東京からなんですが、ゲストハウスに泊まれますか?」と、申し訳無さそうに電話をかけてきた方が何人かおられました。若葉屋に泊まりたいと思っているひとが、そうやって気負わねばならなかったあの社会が、私は悲しかったです。そこで、若葉屋の公式サイトと館内掲示で「若葉屋はお客さまの居住地や職業によって、ご対応を変えることはありません」という明確なメッセージを出すようにしました。これだけ感染が当たり前となった今では、このメッセージもお役御免となり、削除しています。

さて、お客さんが若葉屋に来るとなったときに、お客さんが窮屈な思いをせずに、また、お客さんどうしがぎすぎすもせずに時間を過ごせるには、どうするべきか。お客さんが若葉屋を選び、お客さんが若葉屋でお金を払って泊まってくれるのだから、兎にも角にも、そのお客さんに満足して過ごしてもらえる環境にするべきであると考えました。

ゆっくりと読んでもらえるように、トイレ内に掲示。

その結果、若葉屋では基本的にはマスクの着用を要請しないという方針をとりました。このことは若葉屋の公式サイトで明示していますし、若葉屋を予約してくれた方全員にその案内をしています。当たり前ですが、風邪症状があればマスクの着用を要請しますし、時期によっては三密環境下での着用を要請する文面にしていたときもあって、感染状況、社会状況に鑑みて文面は何度も改めています。マスクを着けるひとも着けないひとも、どちらもが違和感を感じることなく、好きなようにしていられる環境にしています。どちらでもいいのです。

実際、お客さんの反応はというと、チェックイン時に口頭で若葉屋の方針をお伝えしても嫌な顔をされることはなく、批判的なクチコミ投稿もありません。予約時に若葉屋の方針を事前にお伝えしているので、それを見てキャンセルしたお客さんもいるかもしれませんが、お客さんが宿を選ぶのですから、それはそれでいいと思っています。

ドミトリーの個室化

大勢でのツーリングにもぴったりです。

2021年3月に、感染対策として男女混合ドミトリー(相部屋)を廃し、最少人数制限ありのグループ用個室に転換しました。それでしばらく営業してみると、これまで若葉屋ではあまりなかった層のお客さんも来られるようになりました。5畳半の和室では手狭になるぐらいの、小学校高学年以上のお子さん連れのご家族や、大家族、学生さんグループ、ツーリング仲間などです。ドミトリーのときは宿泊を中学生以上に限っていましたが、個室であれば年齢制限も必要なくなり、子どもたちが木製二段ベッドに大喜びしてくれています。相部屋ではなくなったことで、「4人以上でもひとつの個室に泊まれる」という、それまでの若葉屋にはなかった価値が生まれました。

では逆に、ドミトリーのときに多かった客層、ひとり旅のお客さんが来れなくなったのかというと、そうでもありません。和室では引き続き、ひとりでも泊まれます。頻繁にはありませんが、和室が満室で、且つ、グループルームは予約が入る見込みが少ないと判断したときに限り、グループ用個室としても、ひとり旅歓迎のドミトリーとしても、そのどちらでも予約ができるようにしました。私自身がよく、ひとり旅でゲストハウスに泊まってきたので、部屋が空いているのにひとり旅を断る宿には極力、したくなかったのです。

働き方改革

こうして、基本的にはドミトリーを個室化して営業し続け、そのまま繁忙期も経験しましたが、図らずも私としてはちょうどいいぐらいの働き方になりました。繁忙日であっても1日の予約件数は最大4件に抑えることになり、予約管理や会計業務などの事務作業が格段に減ったのです。グループ用個室とドミトリーのハイブリッド運用の日でも、ドミトリーに何件も予約が入りまくることはありません。

やることがない37歳、長男6歳、次男3歳、長女0歳2ヶ月。撮影、妻。

このコロナ禍では時間に余裕ができて、子どもたちと海やキャンプなどに出かけ、これまで以上に一緒に時間を過ごすことになりました。2020年9月には我が家で3人目の子、寿々子が生まれましたが、1人目の幸太郎や2人目の喜一のときよりも穏やかな時間を過ごせています。今振り返ってみると、コロナ前はやるべきことが多すぎたのだと思います。そもそも、私がこうやって自宅併設のゲストハウスをやろうと思ったのは、家族との時間を持てるような働き方にしたかったからです。

余談。コロナ禍での友人とのオンライン読書会が契機となり、さらに時間的に余裕ができたことで本を読む習慣が身についたことは、このコロナ禍の副産物です。般若心経、言語学、資本論、発達障害、精神障害、旅エッセイ、メディア認知、働き方、文化人類学、観光、社会心理学、郷土史、古典文学、宗教、方法序説、民主主義、人類学。これまでの人生では絶対に手を付けなかったような重めの本に手を出すようになりました。読書は、それまで知る由もなかったことや、自分では考えつきもしなかったことに触れることができて、いいものです。ちょっとした折にお客さんとの会話で触れることもあります。

閑話休題。事務作業の軽減については他にも。いくつかのOTAからの予約受付時に、注意事項などについてのメールが自動で送信されるようにしました。以前は、予約が入る度にいつも同じ内容のメールを手動で送っていました。また、チェックイン時にサインをいただいているレジカードの作成や、リピーター予約の判別が自動でできるようにもしました。

清掃でも、毎週恒例のリネンの回収方法を大きく見直し、効率化できました。また、お客さんの車の鍵を管理できるキーボックスを設置したことで、深夜や早朝の鍵の受け渡しがなくなりました。むしろ、どうして今までこうやってこなかったのかと思います。

OTAテコ入れ

コロナ前は、手数料支払が発生するOTA予約よりも、直接予約の比率を上げようとばかり考えていたので、正直、OTAを疎かしてきました。しかし考えてみれば、直接予約だけでは部屋が空いたままだからOTAでも予約を受けているのです。そこで、若葉屋が契約しているOTAでの写真の差し替え、販売プランの作成、料金設定など、抜本的なテコ入れをすることにしました。しかし、これには複雑な設定作業を伴うので、有料のサポートサービスを利用しました。プランの内容や料金パターンは私が作り上げて、各OTAとサイトコントローラーへの反映指示を出します。

コロナ前はサイトコントローラーで在庫管理をしていただけでしたが、今回のテコ入れで細かな調整ができるようになり、OTA予約も喜んで受けられるようになりました。

クチコミ強化

若葉屋に泊まって満足していただいたお客さんたちのクチコミ。これは若葉屋にとっての財産であると再認識したのも、このコロナ禍でした。コロナ前はOTAでのクチコミ対策をしてきませんでした。結果、特に日系OTAではクチコミ投稿がかなり少なく、評価点数が表示されないOTAもあったほどです。そこで、日系OTAの予約は、チェックアウト後に私が一通ずつ、ご宿泊への感謝とクチコミ投稿の案内をサンクスメールとして送るようにしました。これは効果てきめんで、日系OTAでもクチコミ投稿数が増えてきています。

また、電話予約を含む直接予約については、ご宿泊への感謝と従来のTripadvisorに加え、Googleへのクチコミの案内をサンクスメール/SMSとして送るようにしました。Googleは検索エンジン、マップ、ビジネス、ホテル検索の各機能の連携がますます強化され、さらに複数のOTAを横断的に比較できるメタサーチ機能も実装されました。宿泊予約の入口が各OTAからGoogleに移ろうとしている時期なのかもしれません。そういう意味でも、Googleでのクチコミ投稿がより重要になってきています。

若葉屋ではこれからも、フェアなクチコミを大切にしていきますし、引き続き、すべてのクチコミにお返事を書いていきます。なぜなら、お客さんが若葉屋での宿泊について、わざわざ時間をかけて投稿してくれるのですから。

強制イベントで荒療治のコロナ禍だった

このコロナ禍は宿泊事業者にとって、影響を避けることのできない強制イベントでした。最も影響を受けた業種のひとつであったし、多くの宿泊施設が廃業しました。しかしそんな中、流行初期に某ゲストハウス経営者がインタビューでこう語っていました。

コロナ禍で失ったのは、売上だけ。ほかは全部ある。

これには目から鱗。本当にそのとおりです。若葉屋の建物も設備も壊れなかったし、私もおかげさまで元気じゃないですか。

コロナ前夜を思い返すと、日本はインバウンド右肩上がりのお祭り騒ぎ。香川県は訪日宿泊客伸び率が全国でぶっちぎりの1位で、若葉屋も大忙しでした。しかし、あの状況があのまま続いていくことが果たしてよかったのでしょうか。若葉屋にとってのコロナ禍は荒療治だったのだと思います。この3年間で、ハード面でもソフト面でもこんなにもの変革ができましたし、これからの働き方、営業方針を大きく改めることになったのですから。

そして、未曾有のパンデミックがあっても、ゲストハウス若葉屋はやっていけるということがわかりました。それに、やっぱりこの仕事は楽しいです。この仕事、この暮らしにしてよかったなと思えたコロナ禍でした。今日もお客さんを迎えるのが楽しみです。

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